[ 月下美人 ]



その花が開いてゆくのを

息を詰めて 見つめていた



冷たいひかりを 受けて咲く花 だから

月の色をしているのだ と

教えてくれたのは 誰 だったのだろう

どうしてか 思い出すことが 出来なかった



握りこぶしほどの その花 が

爪のような花弁を ほどいてゆくのが

まるで

祈るように 見えたので

哀しいことが あったのか と



てのひらを さしのべようと

やさしい気持ち で なぐさめたくて

頬を寄せた だけなのに



何故か 涙が 止まらなくなった



月の光 で 咲く花 だから

その花弁 は 余りに 冷たく

その姿 は 余りに 儚く

あまりにも 痛々しい いのち だから

こんなにも 美しく 咲くのか

こんなにも 美しく 咲いてゆくのか



咲く花 散る花 皆美しいのに

何より 冷たい この花 が

何より 美しく 仄かな 仄かな ひかりを纏って

月の ひかりに 凍りついてゆく



はりつめた はなびらに 涙 落とさぬように

儚い いのちを 濡らさぬように

立ち尽くす事しか できなかった



一夜の 花が やがて散ってゆくのを

ただ 見つめて 泣いている



最後の一片が 落ちた時

月の光は 絶えるのだろう 月の花は 散るのだろう

何と 孤独な いのち なのか



哀しくもないのに 涙 溢れる

愛しくもないのに 胸が 痛い



気高い いのちが 心に 刺さる









戻ル







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