[ 墓標 ]



ずっと、探していた。
もしかしたら あなたが そうなのかもしれない、と思ったりもしながら ずっと ずっと
信じられない程に強く想いながら探していた。
足元に咲く花の中から一輪、特別なものを見つけだすような。
ともすれば ただの自己欺瞞なのかもしれない、と自分を騙しながら それでもどうしても諦めることが
出来なくて、足元だけを見つめながら こんな所まで歩いてきてしまった。
嘆く声、嘲笑う声、そんなものから耳を塞いで ただ何かを探しながら。
どうしてもあきらめられずに ここまで来てしまった。
手探りで見つけだしたものは、何だったのだろう。
掴んだのは、自分の骨でしかなく。
てのひらに受けたかったのは、本当はかけがえのない大切なもののはずだったのに。
探して探して どうしても見つけられなくて 泣きそうになった時。
はじめて上を向いてみた。



いつかの日にもたらされたひとつのものは、変わらず頭上に光り輝いていて。
それが痛いとか悦いとかではなく、変わらないものだと解ってしまって 血が滲む程口唇を噛みしめてみる。
かなわないのはわかっていたけど、どうしたって あなたなのだろうか。
あなたでなければよかった。私にとってのかけがえのないものが、あなたでさえなければ。
他の誰でもきっと、今よりは呼吸をするのが容易だったのではないだろうか。
抗いがたい力で私を押さえつけて。逆らうなんて考えさせない程に強く強く。
あなたは知らないだろう。私がどんな気持ちで下を向いていたか。
足元の花を探すふりをしながら、いつだってその花をたやすく踏み潰してしまうあなたの事を考えていた。
隠して 隠して 笑っていた私の心を、あなたは決して知らないのだから。



「もう探すのをやめたら?」
何も見つかるわけはないから、と。
無邪気にあなたは言ってのけて。
だから 私は ただ 笑った。
そうだね、やめてしまおう。もう、やめてしまおう。あなたの言うとおり何も見つかるわけは無いのだから。
探すのをやめてあなたを見つめていれば、手の中に何も残らないけれど、もう苦しむことはなくなるだろう。
それがイヤで、やみくもに花に似た何かを探していたけれど、見つかるわけがない。
探していたのはあなたなのだから。
あなたを探していた。私のものになるあなたを。ずっとずっと一人きりがつらくても、それでも。
あなたを掴みたくて下を向いていた。



もう泣くのはやめてしまおう。
あなたの言うとおりに探すのをやめて、あなたから目を反らして。
あなたが気にもとめない微笑みを毎日浮かべて、ずっと欲しかった“なにか”から手を放してしまおう。
そうやって壊れてゆけば、あなたがたった一人だという事も、私が一人で生きてゆけない事も、
いつしかどの花も目に入らなくなっていた事も忘れてしまえるから。
あなたを仰ぎながら笑う。
決して重ならない道をゆくけれど、それでもあなたがかけがえのない人だった事は変わらない。
他の何でも埋められない穴を 一生そのままで笑ってゆくだろう。
いつかあなたが別れの言葉を告げて、てのひらをさしのべてくれるその日まで。
あなたのことを 忘れてしまおうと 決めたから。










戻ル







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